青空文庫ビューアー

麦の ほ

麦の ほ

グリム ヴィルヘルム・カール

 むかし むかし、かみさまが、まだ じぶんで、このの中を、あるきまわっていらっしゃったころの おはなしです。

 そのころは、こくもつが、いまよりも ずっとずっと よく みのりました。むぎのほも、五十や六十 ばかりではありません。四ひゃくも五ひゃくも ついていました。なにしろ、くきには、むぎのつぶが、上から下まで びっしり ついていたのです。くきが ながければながいほど、それだけ、むぎのほも ながかったのです。

 ところが、人間にんげんというものは、あんまり ものがたくさんあると、かみさまが おめぐみをくださることも、つい わすれてしまいます。ありがたいとも おもわなくなって、いいかげんな かるはずみなことをしてしまいます。

 ある日のことです。女の人が、子どもをつれて、むぎばたけのそばを とおりかかりました。子どもは、とんだり はねたりしていましたが、そのうちに、みずたまりにおちて、ふくをよごしてしまいました。

 すると、お母さんは、よく みのっている うつくしいむぎのほを、ひとつかみ むしりとって、それで、子どものふくをふいてやりました。

 ちょうど、かみさまが、そこをとおりかかりました。このようすをごらんになると、

「これからは、もう、むぎのくきには、ほがつかないようにしてやろう。人間にんげんどもは、もうこれからさき、てんのおくりものを もらうねうちがない。」

と、おっしゃいました。

 まわりで、これをきいていた人たちは、びっくりしました。あわてて、ひざをついて、

「どうか、いくらかでも、むぎのくきに、ほをのこしておいてくださいませ。

 人間にんげんどもは、そうしていただく ねうちはないかもしれませんが、せめて、つみのないにわとりたちのために、おねがいします。さもないと、にわとりたちは、おなかをすかして んでしまいますから。」

と、おねがいしました。

 かみさまは、人間にんげんたちが、いまに くるしむようになるのを かんがえて、かわいそうにおもいました。そこで、人間にんげんたちのねがいを おききいれになりました。

 そんなわけで、むぎのほは、いまのように、くきの上のほうにだけ のこっているのです。