青空文庫ビューアー

写真(北満の土産)その二

写真(北満の土産)その二

今野 大力

貴族の表情をこさえるために

ハルピンの白系露人の女は

ジーッと物を見すえてうっかり動揺の見にくさを見せまえとし、古い宝石の腕輪や首かざりやピンに品物以上を物語らせようとし、

窮屈なほど口元をすぼめて上品さを見せんとしている。

いくら金髪で、純粋のロシア人であっても

このロシア人はちっとも値打のないロシア人

今の世界中でロシア人の値打は

社会主義サヴェート共和国を建設して

絶大な成功と自信とを握っているところにあるんだが

いまだに帝制の昔にかえる日を夢見ている

この女達の貴族的な行儀や作法や表情や

そんなことを何か得がたい値打のように

あこがれている、ブルジョア根性の奴等は

どこかにいないか

その写真の女は

ハルピンのカフェーに

うようよと、ねたましそうに憎らしそうに

母国のロシアを見返している値打のないその女達だ。