青空文庫ビューアー

立待岬にいたりて

立待岬にいたりて

今野 大力

露西亜の船の沈んだ片身に残したと聞く石を抱いて

われは又ある日のざんげをするか

函館山は高く

要塞地として秘密を冠る

おごそかな

壮大なる岩礁の牢たる屹立は

東方に面して

何をひそかに語りつつあるか

黒鳥のあまた 岩に群がり

波に浮び 魚を捕う

かつてここら立待岬のアイヌ達は

魚群のきたるをもりを携えて立ち待てりと伝う

東海の波濤のすさまじく寄せ打つ処

崖上の草地にマントを着たる四五人の少女等

寝そべりてハーモニカを吹き、微かに歌をうたう

蟹とたわむれ 充たし得ぬ薄幸詩人の最后の願いは

この函館の地に死ぬことを願いしと碑銘に物語る

その碑は今この岬へ行く山腹の途辺みちべにあり

我をしも死地の願いを言わば

この地に久遠くおんのあこがれを抱くであろう