青空文庫ビューアー

無題 京都

無題 京都

富永 太郎

おまへの歯は よく切れるさうな

山々の皮膚が あんなに赤く

夕陽ゆふひで爛らされた鐃鉢ねうばち

焦々して 摺り合せてゐる

おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ

おまへの顎が、薄明うすあかりを食べてゐる橋の下で

友禅染を晒すのだとかいふくろい水が

産卵を終へた蜉蝣かげろふの羽根を滲ませる

おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ

色褪せた造りものの おまへの四肢てあしの花々で

貧血の柳らを飾つてやることはない

コンクリートの護岸堤は 思ひのままにしらけさせよう

おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ

ああ おまへの歯はよく切れるさうな