青空文庫ビューアー

忌々しき「死」の大君は

忌々しき「死」の大君は

ダンテ アリギエリ

忌々ゆゝしき「死」の大君おほぎみは慈悲のあだなり、

昔よりかなしみの母、

かたくなに、言向ことむけがたきつかさかな。

われも心に「憂愁いうしう」のたねかれぬ、

いざさらばうれひてまじ

このしたの君さいなみにみぬとも。

われ今ここに君が身をつゆばかりだに

慈悲無しと思ふものから、

まがごとの大凶事おほまがごとと、君が罪

ならして責めむ。世の人も知らぬにはあらず、

しかすがになほいきどほり、

けふよりぞ「愛」のめぐみ歸依きえすべき。

いとうつくしき禮讓れいじやうはこのちりの世を捨てたるか。

をみな心のうるはしき徳性さへもうせにしか。

わかきいのちのまさかりに、

「愛」の色香いろかこぼちたる憎き「死」の神。

この淑女いらつめたれなるを、ここに語るははゞかれど、

そが本性ほんしやうの氣高きを述べたればこそ人知らめ。

後世ごせさいはひ得べき身ぞ

あま御空みそらに此君をあふぎ見すらむ。