青空文庫ビューアー

五本の指

五本の指

ベルトラン ルイ

これまでに誰一人身代限やお仕置になつたことの無い正しい家柄

「ジアン・ド・ニヹルの家」

 親指は肉付豐かな弗羅曼フラマンの酒屋の亭主、根が瓢輕な巫山戯もの、三月釀造極上麥酒ビイル招牌かんばんを出した戸口のとこで煙草をのんでる。

 人差指はその家婦かみさんだ。干鱈ひだらのやうに乾涸ひからびた男まさり、あさつぱらから女中をちどほしだ、けるのだらう、徳利は手を離さない、好きだから。

 中指は息子だ。地體、荒削の不器用に出來たからだで、酒造人とうじでなかつたら兵隊、人間に生れなければ馬にでもなつた男だ。

 藥指は此家このやの娘、身輕な小意氣なヅエルビイヌ、奧樣がたへは笹縁さゝべりのれいすも賣るが、殿御にこびは賣り申さぬ。

 小指は家中うちぢゆう祕藏兒ひざうつこ、泣蟲の小僧だが、始終母親の腰巾著になつて引摺られてゐるから、まるで啖人鬼女ひとくひをんなの口にぶらさが稚兒ちごのやうだ。

 人間の手の五本の指はみやこハルレムの花壇にかつて咲いた色珍らしい五瓣のにほひ阿羅世伊止宇あらせいとう