青空文庫ビューアー

虱とるひと

虱とるひと

ランボー ジャン・ニコラ・アルチュール

むづがゆきひたひを赤めをさな

それとなき夢の白き巣立すだちをねがふ時、

爪しろがねに指細きふたりの姉は

たをやかに寢臺近く歩みよる。

青天あをぞらの光、咲き亂れたる花にそゝ

明け放ちたる窓のそばに幼兒をさなごいだき行きて

露ふりかゝるその髮の毛のなかに

うつくしく、恐ろしく又心まどはする指は動きぬ。

ふたりの息のこわごわに出入るをきけば

花の如く、草木の如きかをりして、

折節をりふしあへこゑ。口にづるを

み込みし片唾かたづおとか、接吻せつぷんの熱きねがひか。

にほひよき寂寞せきばくのなか、二人ふたりの黒きまつげ繁叩しばたゝ

えれきの通ふ細指はうつらうつらと、

あてなる爪の下にこそぷつとしらみをつぶしけれ。

時しもあれや、徒然つれ/″\ゑひをさなき心に浮び、

狂ほしきハルモニカの吐息といきの如く

姉が靜かになづさはる其愛撫そのいたはり小休をやみなく

湧きでゝまた消えはつるせつなきおもひ