青空文庫ビューアー

不可能

不可能

ヴェルハーレン エミール

人よ、がたいあの山がいかに高いとも、

 飛躍の念さへせつならば、

 恐れるなかれ不可能の、

 きん駿馬しゆんめをせめたてよ。

登れなほ高く、なほ遠く。たとひさかしらに

 なんぢが心、山腹さんぷく

 泉のそばを慕ふとも、

 よろこびはすべて飛躍である。

みちのなかばにとまる者は、やがて途に迷ふ。

 かつはくるしみかつ悶え

 あやまいかることあつて

 燃立つ心に命がある。

きのふの目標めあて、あすの日はみち障礙しやうげぞ、

 籠の戸いかに固いとも、

 思想はたえず相尅さうこく

 とはに盡きぬはその饑渇きかつ

變化あれよ、向上あれとは、この世の大法たいはふ

 不動の今がいかにして、

 現世げんぜはえを引き𢌞はす

 だいコムパスの支點となる。

過ぎし世の智慧ちゑといふもの何のえきかある、

 授くるものは梭櫚しゆろの葉の

 あぶなげも無い勝利のみ。

 これを越えて飛べ、熱烈の夢。

いやしくも飛躍せば、たえず己に超越せよ。

 われとおのれに驚けよ、

 かしらはたしてこの熱に、

 堪へるか否かを問ふ勿れ。

不斷のよくのたえまない人の心を、

 がたい山の上から、ましぐらに、

 未來めがけて不可能の、

 きん駿馬しゆんめし上げる。