青空文庫ビューアー

霜夜

霜夜

末吉 安持

夜はくだつ十一時、

霜さむく、しくるやみの気のいてに、

つかれては黄塵わうじん

しくしくと泣き湿しめり、

侘寝わびねすらし。

いろめし達摩像だるまぞう

はた古りし徳利とくりのやうに、つくねんと、

屑本くずほんのちりばふなか

くびほそうきやく

をとこをみな

すゝけたる帆木綿ほもめん

一品いつぴん文字もじさびしく、くもり、

皿道具さらだうぐなかへ、つと、

しのびよる黒き物――

巡査じゆんさなりき。

ばん拍子木へうしぎ

後方しりへより『鍋焼なべやきうどん』、またるは、

よきこゑの『こひ辻占つじうら

しやけさげて小走こばしりの

まち若衆わかしゆ

炭俵すみだわら、はたまきか、

河岸かしとほく、をりからものつるおと

犬のこゑ、さはれ五分時ごふんじ

濁水だくすいおともなく

西へ流る。