青空文庫ビューアー

かさぬ宿

かさぬ宿

末吉 安持

青野あをのに行き暮れて、

山下街やましたまち片門かたかどに、

いかで一夜ひとよ宿やど乞ふと

みやこのなまり、――うらわかき

学生がくせいづれの七人しちにん

手にこそしたれ、百合の花。

家の下部しもべが、かゞみ、

しはがれごゑに、竹箒たけばうき

とる手とどめて物いへば、

二室ふたまへだてし簾障子すしやうじ

奥に乳母うばよぶ――こは人の

百合の花なる白き影。

親なき君をいつく

あなあやにくと、しとやかに

乳母はいなみぬ。よし、さらば、

そのあえかなる君祝ひ

捧ぐとあたへ行き過ぎぬ、

七人しちにんの手の百合の花。