青空文庫ビューアー

歌のない歌

歌のない歌

森川 義信

この傾斜では

お伽話はやめて

こはれたオペラグラスで

アラベスク風な雨をごらん

ひととき鳩が白い耳を洗ふと

シガーのやうに雲が降りて来て

ぼくの影を踏みつけてゐる

光のレエスのシヤボンの泡のやうに

静かに古い楽器はなり止む

そして…………

隕石の描く半円形のあたりで

それはスパアクするカアブする

匂ひの向ふに花がこぼれる

優しい硝子罎の中では

ひねくれた愛情のやうに

ぼくがなくした時刻をかみしめる

ぼくはぼくの歌を忘れてゐる