青空文庫ビューアー

冬の夜の歌

冬の夜の歌

森川 義信

私は墜ちて行くのだ

破れた手風琴の挽歌におくられて

古びた天鵞絨の匂ひに噎び

黝い霧に深く包まれて

ゆふぐれの向ふへと私は墜ちて行くのだ

今はこの掌に触れた蒼空もなく

胸近く海のやうに揺れた歌声も――

どうしたのだ私の愛した小さくて美しかつたものよ

小鳥たちよ 草花たちよ 新月よ 青い林檎よ

しきりに眩暈がおしよせる心には

悔恨が一本の太い水脈となり――

陰鬱な不協和音が青く戦き

狂つたヴイオロンが駈け廻り

すべては白蝋石の上に痙攣し

腐蝕した玻璃の破片が暗黒の空間に飛散するのだ

ああ 遂に今 若い肋骨さへ噛み穿つ

寒々と冴えた牙の戦慄よ