青空文庫ビューアー

雨の日

雨の日

森川 義信

硝子窓から青猫がやつて来てぼくの膝にのる

よろよろとまるで一枚の翳のやうなやつだ

背をなでてゐるとぼうぼうと啼き出し

ぼくの腹の中までぼうぼうと啼き出し

こいつ こいつ …………

だがお前の眼のうるんだ青白い幻燈よ

ゆううつな向日葵のやうにくるりくるりと

黒繻子の喪服の似合ふ貴婦人か

お前は晩秋のやうにぼくの膝にやつてくる

苦い散薬の重いしめりに

色変へるまで青猫を思索するぼくの若さよ

何年も座つてゐたやうに立ち上り窓に歩みよる

ぼくはもうぼくの青猫を放たう

夕暮は力強く窓硝子をおしつけ

その向ふでは雨の跫音が嗤ふ

ぼくは掌をみる ぼくは胸をみる

青猫は――青猫はもうゐない

いや

青猫はまたどこかでぼうぼうと啼きだす