青空文庫ビューアー

かめ

かめ

濤音

まがどりのやうな冠船が翼をひろげて

那覇港内なふわとうちにしやんで居るうちは

薩摩の殿にはあへまいわなあ。

凛々りゝしい殿のかみしも姿が眼の前に

まざまざと浮んでくるやうな。―

殿はいま露つぽい美里間切みざとまぎりを深編笠のしのびあるき。

あゝなさけない世となつた。

ついあけがたまでなつかしい殿御と

添寝の夢の名残はへやすみにも残れど。

うらめしい開門鐘けぢやうがねに空が白むと

むつくり起きあかりて仰せらるゝ

「さらばかめイしばらくは待つてくれ。」

「妾もついてゆきます」と申すと

「これが邪魔する」とはつたと叩れた腰の朱鞘。

そうしててしやで染のわか小指をにぎられたが。

はてなさけない世となつた。

膏脂あぶら 香 息のつまりさうな唐人と

どうして添寝ができませうか。