青空文庫ビューアー

漁村

漁村

森川 義信

波がものをふやうになつてから

誰も姿すがたを見せない砂浜に

抵抗する事を知らない貝殻かひがらのやうな女が

私生児ないしよごを抱いて立つてゐた

それは――生きるためには、生きる為には

     泥蟹どろがにをまで食べなければならぬ

     悲しい漁村の一つの姿である

夢を見ることのゆるされない漁村の娘は

今日泥蟹の殻ばかりを捨てに行くのだつた