青空文庫ビューアー

世はさながらに

世はさながらに

三好 達治

月やあらぬ春やむかしの春ならぬわが身ひとつはもとの身にして    業平

かなたなる海にむかひて

かしらあげさへづる鳥は

こぞの春この木の枝に

きて啼きし青鵐あをじのとりか

かぐはしきこのくれなゐの

梅の花さけるしたかげ

これやこのこぞの長椅子

古りしままなほくちずして

こぞありしほとりに咲ける

はしきやしたんぽぽの花

宿をでてもの思ひつつ

ゆくりなくわが來しをかべ

あづさゆみ春の日ざしに

こぞの日のこぞのものみな

うつろはでありけるよあな

いにしへのうたのこころを

なかなかにわが身のみかは

おしなべて世はさながらに

さながらに

ものの

あはれや