青空文庫ビューアー

兄ちゃん

兄ちゃん

木村 好子

吹きっさらしの田圃たんぼには

もう、村のたあれも出ていない

だのに、私の家では麦蒔きがすまない

取り入れ半ばに兄ちゃんが召集されて

あとに残った女手二つ

私とおっ母とであくせくと麦蒔き

毎日、朝早くから晩おそくまで

かたい刈株をうちかえし、うねをつくり

せっせと蒔きつけを急ぐ私達――

かよわい女手で、夕方、ぐったり疲れて家に帰れば

地主の奴が、がみがみ年貢を取りたてにやってくる

おお兄ちゃんが満州へ引ったてられて行ってから

急に、めっきりやつれたおっ母

老いさらぼけたそのやせ腕に

ふり上げる一鍬一鍬!

私の胸は戦争への憎しみを深める

勝っても、負けても、戦争が私達に楽な生活くらしをよこしはすまいに

働き盛りの貧農の息子を奪って

み国の為にと殺し合せるなんて………

あああの寒い満州でたたかう兄ちゃん!

兄ちゃんの身は無事かしら

私はおっ母をいたわりはげまし

兄ちゃんのかわりにせっせと働くけれども――

戦争への憎悪で、全身はわななく。

(『プロレタリア詩』一九三一年十二月号に発表)