青空文庫ビューアー

鉄のシャフト

鉄のシャフト

野村 吉哉

ゴシゴシゴシキイキイゴシゴシ……

俺の役目はでっかい鉄のシャフトを磨くのだ

まっ赤に染まったどろどろの手袋の中で

感覚を失ってしまっている俺の手は

俺の全生命をこめて鉄のシャフトを磨くのだ

――捨値で買ったボロボロに腐りかけた幾万本の鉄のシャフトは

磨いて塗って幾十倍に売りつけられるのだ

コンミッションの力で

新品としてスラスラ通って行くのだ

買うのは誰だ――やっぱり俺達だった

売った生命の代価はかくして奪われ

残る物は何だ――残るものは病根だ。老衰だ。発狂だ。いや死だ!

「しっかり力を入れて磨けやい」

かんとくにどなられ

ゴシゴシゴシキイキイゴシゴシ

磨く俺の手にまっ赤にこびりつくものは何だ

――こずり減らされた生命だ――いやその代価だ。奪われた代価だ

(発表誌不詳 『新興文学全集』10を底本)