青空文庫ビューアー

須賀爺

須賀爺

根岸 正吉

須賀爺の面の憎さよ。

あの

額に寄する残忍の皺よ。

冷酷のまなざしよ。

憎らしきえくぼよ頬っぺたの穴よ。

須賀爺の面の憎くさよ。

今日も亦緯糸よこいとをたぐりしと叱りし。

解雇するぞとおどかせし。

そんなに叱るなよ。罵しるなよ。

おれは慣れないのだ。

機台の前に立つさえ怖いのだ。

あのの音おさ打つ音にも驚くのだよ。

須賀爺の面の憎さよ。

おれのみが憎むのではない。

みんなだ。

時間が十二時を打っても機械が止まっても

汽笛の鳴らぬうち

飯食いにやらぬと出口に立ち塞がる。

あの面の憎くさよ

(『新社会』一九一六年六月号にN正吉名で発表 一九二〇年五月日本評論社刊『どん底で歌う』を底本)