青空文庫ビューアー

立秋

立秋

萩原 朔太郎

遠く行く君が手に、

胡弓の箱はおもからむ。

きのふ山より摘みてかへれば、

紫苑はなしぼみて、

すでに秋の愁ひをさそふ。

友よ、

やさしく胡弓を摩り、

遠くよりしも光を送れ。

ああ、わが故郷にあるの日、

終日ひねもす怒りうゑを感じ、

手を高く蒼天のうへに伸ぶ。

―一九一四、八、十四―