青空文庫ビューアー

利根川の岸辺より

利根川の岸辺より

萩原 朔太郎

こころにひまなく詠嘆は流れいづ、

その流れいづる日のせきがたく、

やよひも櫻の芽をふくみ、

つちによめなはさけびたり。

まひる利根川のほとりを歩めば、

二人歩めばしばなくつぐみ、

つぐみの鳴くに感じたるわが友のしんじつは尚深けれども、

いまもわが身の身うちよりもえいづる、

永日の嘆きはいやさらにときがたし、

まことに故郷の春はさびしく、

ここらへて山際の雪消ゆるを見ず。

我等利根川の岸邊に立てば、

さらさらと洋紙は水にすべり落ち、

いろあかきいさなのひとむれ、

しねりつつ友が手に泳ぐを見たり。

(室生犀星氏に)