青空文庫ビューアー

寒い夜の自我像

寒い夜の自我像

中原 中也

恋人よ、そのかなしげな歌をやめてよ、

おまへの魂がいらいらするので、

そんな歌をうたひだすのだ。

しかもおまへはわがままに

親しい人だと歌つてきかせる。

ああ、それは不可いけないことだ!

降りくる悲しみを少しもうけとめないで、

安易で架空な有頂天を幸福と感じ

自分を売る店を探して走り廻るとは、

なんと悲しく悲しいことだ……

神よ私をお憐み下さい!

 私は弱いので、

 悲しみに出遇であふごとに自分が支へきれずに、

 生活を言葉に換へてしまひます。

 そして堅くなりすぎるか

 自堕落になりすぎるかしなければ、

 自分を保つすべがないやうな破目はめになります。

神よ私をお憐れみ下さい!

この私の弱い骨を、暖いトレモロで満たして下さい。

ああ神よ、私が先づ、自分自身であれるやう

日光と仕事とをお与へ下さい!

(一九二九・一・二〇)