青空文庫ビューアー

部屋の中

部屋の中

尾形 亀之助

 雨が降つてゐる。雞が啼いてゐる。

×

 何時の間にか雨が止んでゐる。私は机の前に座つてゐる。朝、床の中で新聞を読んだ他何もしてゐない。氷のやうなものが食べたい。

×

 淋みしい「人生興奮」。

 ながいことかゝつて火鉢に炭をついでゐた。

 僕は何か喜びにあひたい。このまゝ日が暮れてしまつては、口ひとつきくことが出来ない。

×

 僕はいつものやうに寝床に入つてゐる。そして、電燈を消さうか消すまいかと思案してゐる。もう床へ入つてから二時間はたつてゐる。

×

 月のない夜は暗い。窓に何処かの門燈がうすく映つてゐる。

 ま夜中よ

 このま暗な部屋に眼をさましてゐて

 蒲団の中で動かしてゐる足が私の何なのかがわからない。

×

 この頃僕は日記をつける気にはなれない。たのまれて書いてゐるのだ。僕はこの頃きせるで煙草をのんでゐる。時々詩を書いてゐる。

「この頃我が胸に燃え上つたものはみな、すべて再び我が胸の深みに沈んで行け……」といふツルゲエネフの「ファウスト」の終りにある言葉を思ひ出してゐる。

(一九二八年一月×日)

(現代文芸第五巻第二号 昭和3年3月発行)